2007-10-01から1ヶ月間の記事一覧

キラーゼ〜スファラディ系ユダヤ人母娘の運命(1)

〔書 名〕 KİRAZE(仮題:『キラーゼ〜スファラディ系ユダヤ人母娘の運命』) 〔著 者〕 Solmaz Kamuran(ソルマズ・キャームラン) 〔出 版 社〕 İNKILAP 〔出 版 年〕 2000年 〔頁 数〕 本文390ページ 〔著 者 紹 介〕 1954年、イスタンブール生まれ。イス…

『雪』より(5)

『雪』の訳文検証は、今回を最終回とする。 最後に、細かくなるが、訳語レベルの問題があると思われる箇所を取り上げたい。 Kaのように学び、ものを書く人間の一人がカルスの苦悩のためにイスタンブルから来たのを知って喜んでいることを知った。率直な言葉…

『雪』より(4)

前回の抜粋箇所の続きから。 いずれも、アナトリア特有の習慣・夫婦関係を色濃く描写した箇所である。 部屋に入ってきたフンダ・エセルも、不必要なほど生んだ子供たちの面倒を見て、夫がどこにいるのかすら知らず、どこかで女中や煙草労働者や絨毯織りや看…

『雪』より(3)

・・・・男たちの全ては、憂鬱感のために萎えているのを見たと彼は言った。「奴らは茶屋で何日も、何日も何もしないで座っている」と語った。「どこの町でも、何百人も、トルコ中で何十万、何百万人もの失業者や成功しなかった者、希望のない者、動こうとし…

『雪』より(2)

今回は、細かい構文の読解ミスをふたつみっつ。 ―抜粋はAmazon「なか見!検索」より― 雪は夢の中で降るように長々と静かに降りつづき、窓側に座っていた乗客は、長年、熱心に求めていたものが、無垢と純粋さによって清められたと、そして自分がこの世で、我…

『雪』より(1)

彼が間に合ったマギルス商標の古びたバスの助手は、閉めた荷物入れをもう一度開けたくなかったので、「時間がないから」と言った。そのために今、両脚の間に置いている臙脂色のバリイ商標の鞄を預けずに手元に置いたのだった。窓側に座っているこの乗客は五…

アーンティ・ネリー/オスマン人に嫁いだあるイギリス女性の半生(17)

§帰還 イスタンブールに着きました。はやる心にもかかわらず、座り続けた私の身体はコンクリートのように重く身動きがとれませんでした。車椅子が必要かときかれて断固否定した私ですが、スチュワーデスの手助けなしには、タラップを降りることさえままなり…

アーンティ・ネリー/オスマン人に嫁いだあるイギリス女性の半生(16)

§女ひとりで―3 ドイツ軍が各地で敗北を喫しはじめました。私たちは、ド・ゴール将軍が勝ち進んでいるという吉報をラジオで聞いては喜び、一刻も早い終戦を待ち望んでいました。 ある夜、ドアが激しくノックされ、開けてみると、マダム・ジャネットでした。…

『わたしの名は紅』より(8)

見習いの頃からわたしも又、深いところにある真実や彼方より聞こえる声を恐れたり、無視したり、馬鹿にしたりしてきました。その結果この惨めな井戸の底で果てています。あなた自身の身にも起こりうることです。お気をつけなされ。いまや、腐敗が進んでいや…

『わたしの名は紅』より(7)

思いもかけない石の撃打によって頭蓋骨の端がつぶされた時、あの野郎がわたしを殺そうとしているのがわかったものの、まだわたしが死ぬとは思いませんでした。工房と家の間を行き来する地味な生活をしていた時には気がつかなかったのですが、わたしにも夢が…

『わたしの名は紅』より(6)

実は、前回までで『わたしの名は紅』からの訳文検証はいったん中断しようと思っていた。HP、ブログ等で公開されている感想・書評自体は多いのだが、訳文の一部をそのまま抜粋・掲載してあるものはわずかであり、既訳がこれ以上手に入りそうもなかったためで…

『わたしの名は紅』より(5)

黙って、恭しく、身動きもせずに、わたしたちは長い間絵を眺めていた。少しでも動けば、向かいの部屋から来る空気が蝋燭の炎を波打たせて、父の神秘的な絵が動き出すように見えた。父の死の原因となったこれらの絵に魅せられていた。その馬の妙なこと、紅の…

『わたしの名は紅』より(4)

「・・・予言者様の聖遷からちょうど一千年経った時、イスラム暦の一千年目に、ヴェネチア総督の目に、イスタンブルの強力な軍とイスラムの誇りとともに崇高なるオスマン家の力と富を見せて、畏れを抱かせるような本でした。 この世で最も価値のある、一番大…

『わたしの名は紅』より(3)

人殺しにふさわしい二つ目の声をもちました。普段の生活では使わない、この人を馬鹿にしたような悪辣な第二の声で話してみましょう。人殺しにならなかったなら、今も話しているであろう、聞き覚えのある昔の声もときどきは聞くだろうが、その時は「俺は人殺…

『わたしの名は紅』より(2)

この七年間の間に五百六十回譲渡されました。イスタンブルで行ったことのない家、店、市場、モスク、教会、ユダヤ人のシナゴークはありません。歩き回ると、贋金について思ったよりずっと多く噂話が出ているのを、商人たちがわたしの名のもとに嘘っぱちを言…

『わたしの名は紅』より(1)

『アーンティ・ネリー』が思いのほか長引いてしまっている。梗概をまとめきれない私の力量不足(要領の悪さ)以外の何ものでもないのだが、あと残すところ3〜4回で完結する予定である。もし、継続的にご覧くださっている奇特な方がおられるのなら、もう暫く…

アーンティ・ネリー/オスマン人に嫁いだあるイギリス女性の半生(15)

§女ひとりで―2 6月の半頃、パリはドイツ軍の占領下に入りました。ヒットラーが凱旋門を通る際の歓声をラジオで聞きながら、涙を流しました。 週に二度、配給券と交換で保存用の食料を手に入れるために、早朝から長い列に並びました。それでどうにか、自分ひ…

アーンティ・ネリー/オスマン人に嫁いだあるイギリス女性の半生(14)

§女ひとりで―1 イスタンブールを離れるのは辛く憂鬱なものでした。戦争の足音が、フランスにまで届こうとしていたのです。唯一の慰めは、娘ニーメットの婚約でした。私は娘が新しい家庭を築けるよう手助けをしてやるために、パリに戻るのです。 経済的には…