2006-10-01から1ヶ月間の記事一覧

 『白い城』 【6】 P.17〜19 

まずは広間に通された。 そこで待っていると、部屋のひとつに招き入れられた。 小さな安楽椅子に小柄で感じの良い男が、上に毛布をかけて横になっていた。 その傍には、大柄な別の人間がいた。 横になっているのがパシャらしく、私を傍らに呼び寄せ、話を交…

 『白い城』 【5】 P.15〜17

イスタンブールには、見事な凱旋式とともに入港した。 少年スルタンも見物していると聞いた。 マストというマストの先端には軍旗が掲げられ、その下には我々の旗、聖母マリアの絵、十字架が逆さまに提げられ、ならず者たちに下から好き放題に矢で射させた。 …

 『白い城』 【4】 P.13〜15

当時、私は、母親からも婚約者や親友たちからも、他の名前で呼ばれる別の人間だった。 かつて私であった、あるいは今そのように思うその人物を、時折ながらいまだに夢に見、そして汗をびっしょりかいては夢から覚める。 褪めた色合いを、後に何年も私たちが…

 『白い城』 【3】 P.11〜13

1 ヴェネツィアからナポリへと向かっていた。 トルコの船団が我々の行く手を遮った。 我々の船は合わせても三隻。 奴らのはといえば、霧の中から現れたガレー船団の後ろが一向に見えてこないほどだった。 我々の船では一瞬にして恐怖と狼狽が広がった。 ほ…

 『白い城』 【2】 P.9〜10

(「はじめに」後半) この物語にかける私の情熱はおそらくこのせいで、いっそう高まった。 いっときは辞職すら考えた。 しかし仕事も友達のことも気に入っていた。 こうしてある時期、私の目の前に現れる誰にでも、まるでその物語は見つけたのではなく私自…

『白い城』 【1】  P.7〜9

はじめに この手記は、1982年のこと、毎夏一週間にわたり中に籠ってほじくり回すのを習慣としていたゲブゼ*1郡庁所属のあの廃物「古文書館」で、勅令、登記簿、裁判記録や公的台帳類と一緒にギュウギュウに詰め込まれた埃だらけの箱の奥底で見つけた。 …

植字工は語る 

『TEMPO』最新号(2006年10月19日号)の記事によると、オルハン・パムックはいまだに原稿を、若い頃から使い慣れたブロックノート*1に手書きで書いているらしい。 ■オルハン・パムック作品の植字工*2 ヒュスニュ・アッバス(Hüsnü Abbas)は語る オ…

【バイオグラフィー】 ウィキペディア編 

トルコ語版ウィキペディア(Vikipedi)に記載されている、オルハン・パムックの項から。 なかなか興味深いパムック像が浮かび上がってくると思う。 ■フェリット・オルハン・パムック(Ferit Orhan Pamuk) 1952年6月7日、イスタンブール生まれ。その小…

【バイオグラフィー】

■オルハン・パムック(ORHAN PAMUK) 1952年、イスタンブールに生まれ、『ジェヴデット氏と息子たち』『黒い本』という小説で描かれた家族によく似た家族のもと、ニシャンタシュで育つ。 ニューヨークで過ごした3年間を除き、常にイスタンブールで暮ら…

『白い城』に挑戦してみる

2006年度ノーベル文学賞受賞作家であるオルハン・パムック(Orhan Pamuk)*1の作品世界を、どうのこうの言える立場にはない。「トルコ人にも難しい」といわれる彼の作品を初めて手に取ってみる勇気が湧いたのは、ノーベル賞受賞が発表されてようやく数日…