『雪』より(3)

・・・・男たちの全ては、憂鬱感のために萎えているのを見たと彼は言った。「奴らは茶屋で何日も、何日も何もしないで座っている」と語った。「どこの町でも、何百人も、トルコ中で何十万、何百万人もの失業者や成功しなかった者、希望のない者、動こうとしない者など哀れな男たちがいた。彼らには自分をきちんとすることも、薄汚れた上着のボタンをはめて、意思や腕を動かす力も、一つの物語を最後まで聞くだけの注意力もなく、冗談に笑うこともできなかった。」彼らの大部分は不幸せのために眠れないこと、煙草が自分を殺してくれると喜んでいること、話し始めた文は最後まで言う意味がないとわかって途中でやめること、テレビの番組を好きだったり楽しかったりするからではなくて、周囲にある憂鬱に我慢できなくて見ていること、本当は死にたいと思っていること、しかし自分を自殺するに値するとは思えないこと、絶えず罰則について語る軍のクーデタの方を、希望を約束する政治家よりはよいとすることなどを語った。部屋に入ってきたフンダ・エセルも、不必要なほど生んだ子供たちの面倒を見て、夫がどこにいるのかすら知らず、どこかで 女中や煙草労働者や絨毯織りや看護婦などをして、僅かな金を稼いでいる彼らの妻たちがいると付け加えた。絶えず子供たちに喚きちらし、泣いて生きているこの女たちがいなかったら、アナトリア中に伝染している、全て似たような薄汚れたシャツを着た、髭を剃らない、つまらなそうな、趣味のない、何百万の男たちも、凍てつく夜に凍えて死ぬ乞食や、居酒屋から出て開いていたマンホールに落ちて死んだ酔っ払いや、あるいはまた、パジャマでつっかけを履いて近所までパンを買いに行かされて道に迷った呆け老人のように、いなくなってしまったであろう。ところが、"この哀れなカルスの町"で見るように、彼らは多すぎるほどいる。そして彼らの唯一の楽しみは、一生の借りがある、そして愛していることを恥じている妻たちを虐めることだった。・・・・・・(p257-258)

(原文p.194-5)
こちらのブログよりお借りしました。http://d.hatena.ne.jp/umedamochio/20070108/p1


 自然な日本語に訳すのが難しい表現が連なっている箇所である。複雑な係り受けも多い。したがって、既訳のなかにもしっくりこない箇所が多々見受けられる。


 まず違和感を感じたのは、最初の一行。

男たちの全ては、憂鬱感のために萎えているのを見たと彼は言った。

 「憂鬱感のために萎える」とは?
 原文を見てみると、

...bu ülkenin bütün erkeklerinin kasvet duygusu yüzünden donup kaldıklarını gördüğünü söyledi.

 kasvetはsıkıntı、iç sıkıntısıに等しく、憂鬱、倦怠、閉塞、無気力・・・などと訳せる。
 donup kalmakdonakalmakに同じ。硬直する、凝り固まる、立ちすくむ、身動きが取れなくなる、二進も三進もいかなくなる、などと訳せると思うが、「萎える」という意味をここから取り出すのは不可能だろう。


 まだ満足はいかないが、こんな風に訳してみた。


 この国の男という男が、倦怠感のあまりに身動きできなくなっているのを目撃した、と言った。


彼らには自分をきちんとすることも、薄汚れた上着のボタンをはめて、意思や腕を動かす力も、一つの物語を最後まで聞くだけの注意力もなく、冗談に笑うこともできなかった。

Üstlerine başlarına çekidüzen verecek halleri, yağlı ve lekeli ceketlerini düğmeleyecek iradeleri, elllerini kollarını kıpırdatacak enerjileri, bir hikayeyi sonuna kadar dinleyecek dikkatleri, bir şakaya gülecek hallleri yok kardeşlerimin.


 ブログ執筆者の抜粋ミスかもしれないが。


奴らには、上着や髪の毛をきちんと整えようという力も、脂ぎり汚れきった上着のボタンを嵌めようという意思も、手や腕を動かそうというエネルギーも、話に最後まで耳を傾けようという注意力も、冗談に笑おうという力もなかった。


彼らの大部分は不幸せのために眠れないこと、煙草が自分を殺してくれると喜んでいること、話し始めた文は最後まで言う意味がないとわかって途中でやめること、テレビの番組を好きだったり楽しかったりするからではなくて、周囲にある憂鬱に我慢できなくて見ていること、本当は死にたいと思っていること、しかし自分を自殺するに値するとは思えないこと、絶えず罰則について語る軍のクーデタの方を、希望を約束する政治家よりはよいとすることなどを語った。

Çoğunun mutsuzluktan uyuyamadığını, sigaradan kendilerini öldürüyor diye zevk aldıklarını, çoğunun başladığı cümleyi bitirmenin anlamsızlığını kavrayıp yarıda bıraktığını, televizyon programı sevdikleri ve eğlendikleri için değil, çevrelerindeki diğer kasvetlere tahammmül edemedikleri için seyrettiklerini, aslında ölmek istediklerini ama kendilerini intihara değer bulmadıklarını, seçimlerde kendilerine hak ettikleri cezayı versin diye en sefil partilerin en rezil adaylarına oy verdiklerini, sürekli cezadan söz eden askeri darbecileri sürekli umut vaad eden siyasetçilere tercih ettiklerini anlattı.


 こちらも同様に抜粋ミスの可能性があるが、訳抜けがある。


奴らの多くが不幸で眠れないこと、自分を殺してくれるからと喜んで煙草を吸っていること、いったん話し始めた文を最後まで話し終えるのは無意味だと悟って途中でやめてしまうこと、テレビ番組を好きだからでも楽しいからでもなく、自分の周りを取り巻いている別の倦怠に耐えられないがために眺めていること、本当は死んでしまいたいのに、自分が自殺に値するとは思っていないこと、選挙になると自身に当然の報いが返ってくるようにと、もっとも低俗な党のもっとも恥知らずな候補者に投票すること、しきりに制裁を口にする軍事クーデター擁護派の方が、しきりに希望を約束する政治家たちよりはましだと思っていることなどを語った。