キラーゼ〜スファラディ系ユダヤ人母娘の運命(1)

KİRAZE




〔書    名〕 KİRAZE(仮題:『キラーゼ〜スファラディユダヤ人母娘の運命』)
〔著    者〕 Solmaz Kamuran(ソルマズ・キャームラン)
〔出  版 社〕 İNKILAP
〔出  版 年〕 2000年
〔頁    数〕 本文390ページ


〔著 者 紹 介〕 
 1954年、イスタンブール生まれ。イスタンブール大学歯学部卒業。
 3年にわたりturkiye.net内で、「酔っ払いの打ち明け話」のコラムニストとして、毎週論考を執筆するほか、テレビ番組のために数々の文章を書き上げる。その旅行記はさまざまな出版社によって出版された。
 作品には、小説『鱸の骨』、自伝『イペッキ・ボジェイの殺害』があるほか、サフィイェ・スルタンを主題とした三作の翻訳書もある。


〔あ ら す じ〕 
 1492年、全土にユダヤ人追放令が敷かれたスペインでは、異端審問官が横行し、見境なくユダヤ人を連行しては処刑していた。やむなく先祖代々の土地であるトレドを脱出することになったデ・トレド一家は、はじめポルトガルに越境し、リスボンから船でイスタンブールへの亡命を試みた。しかし、運命はそれを簡単には許さなかった。
 嵐で船は沈没し、両親も弟も失って天涯孤独となったデ・トレド家の娘ラシェルは、運命の波にさらわれるようにしてモロッコからサントリーニ島へ、そして13年後にようやくイスタンブールへと辿りつく。その町のどこかで、幼なじみであり、永遠の愛を誓った恋人モーシェが暮らしているはずだった。
 そして翌1509年の大地震で、ついにふたりは再会した・・・。


〔歴史的背景〕
 1492年、レコンキスタの完了とともにスペインを追放された何十万人ものスファラディユダヤ人。その一部はオランダ、イギリス、フランスに、大部分は、北アフリカや中東などのオスマン帝国領内に逃げ込んだ。時のスルタン、バイェズィット2世はユダヤ人を積極的に受け入れ、こうして帝国領内に分散、定住したユダヤ人のもたらした技術によって帝国の商工業、文化・芸術は豊かに花開いたといわれる。オスマン帝国に初めて活版印刷をもたらしたのも、スファラディユダヤ人であり、彼らによってヘブライ語スペイン語の書物が盛んに印刷されたという。この小説の主人公たちであるラシェルやモーシェの一家も印刷業を営んでいる設定になっている。


〔感想・評価〕  
 スペインを追放されたスファラディユダヤ人一家の娘ラシェルとその娘エステル・キラ、別名キラーゼの、運命の波に大きく翻弄された生涯を、100年にわたる激動の時代と、覇権争い激しき地中海情勢のなかで描く。
 政治と宗教。東と西。キリスト教イスラム教。陰謀と駆け引き。スペイン、ヴァチカン、ヴェネチアオスマン帝国。スルタンとハーレムと女奴隷たち。愛と憎しみ。恋とセックス。死と誕生。さまざまな要素をこれでもかと詰め込んだ、絢爛たる歴史絵巻である。

 運命的かつ悲劇的なストーリー展開は、全編にわたり予定調和的であり、「いかにも」の感はあるが、それがゆえに読者の喜ぶツボを心得ているというべきか。テレビの仕事(シナリオか?)をしていただけのことはあり、奔放な筆づかいによって読者をぐいぐいと物語に引き込む力量がある。時代考証、歴史的事実の準拠という面では疑問がなくはないが、舞台、登場人物ともに有名どころを揃えており、読者サービスには長けているといえるだろう。
 2001年の「トップに輝いたものたち」のうち、「最も気に入られた書籍」賞を受賞している。