『奴隷商人―チューリップ時代に咲いたひとつの愛の物語』を読む(2)

レシャット・エクレム・コチュ




■レシャット・エクレム・コチュ(Reşad Ekrem Koçu)


 1905年、イスタンブール生まれ。父エクレム・レシャット・ベイ(1877-1933)は、イスタンブールを拠点とする「Tarih(歴史)」「Malûmat(情報)」「Ceride-i Havadis*1」の各新聞社で働いた後、コンヤ工業学校の校長に就任し、救国戦争終結までこの任を務める。この間、『Babalık(父性)』新聞にも記事を書き、コンヤを離れイスタンブールに戻ると、1925年から『Cumhuriyet(共和国)』新聞の地方ニュース局長として終生この任を勤め上げる。
 1921年にブルサ男子高等学校を卒業したレシャット・エクレム・コチュは、イスタンブール大学文学部歴史学科を1931年に卒業。その人生にも作品にも大きく影響を与えることになるアフメット・レフィック・アルトゥナイに師事し、卒業後も同大学で助手として勤めはじめる。しかし1933年の大学改革で数多くの教員が人員整理の対象となると、アルトゥナイともに大学を離れることになる。
その後、歴史教師として異なる高校を転々とする一方で、何種類もの雑誌、新聞で詩や少年小説のほか、オスマン時代の興味深い事件や人々を題材にした歴史物語を発表する。そのうち出版されたのは一部にすぎず、いまだ日の目を見ていない論考は何百にものぼる。
 しかしレシャット・エクレム・コチュといえば、なによりもイスタンブール百科事典(İstanbul Ansiklopedisi)』の著者として知られる。様々な角度からイスタンブールの細部を描写した挿絵入りのこの大作は、残念ながら彼自身の困窮が原因で、第11巻のGの途中までで未完成に終わる。
 1975年没。



代表作

○ 『宦官長の私生児 Kızlarağasının Piçi』 (1933)
○ 『ハティジェ・スルタンと画家メリング Harice Sultan ve Ressam Melling』(1934)
○ 『昔のイスタンブール―酒場と女装の踊り子 Eski İstanbul’da Meylaneler ve Meyhane Köçekleri』(1947)
○ 『歴史のなかの不思議な出来事 Tarihimizde Garip Vakalar』(1952)
○ 『オスマン朝のスルタンたち Osmanlı Padişahları』(1960)
○ 『男少女 Erkek Kızlar』(1962)
○ 『山を治める王たち Dağ Padişahları』(1962)
○ 『奴隷商人 Esircibaşı』 (1962)
○ 『フォルサ・ハリル Forsa Halil』(1962)
○ 『イェニチェリ Yeniçeriler』 (1964)
○ 『オスマン帝国史のパノラマ Osmanlı Tarihinin Panoraması』 (1967)
○ 『征服王スルタン・メフメット Fatih Sultan Mehmed』 (1965)
○ 『パトローナ・ハリル Patrona Halil』(1967)
○ 『カバックチュ・ムスタファ Kabakçı Mustafa』(1968)

*1:1840年、イギリス人実業家ウィリアム・チャーチルによって創刊される。トルコの出版史において、トルコ語で印刷された初(二紙目とも)の新聞。