『奴隷商人―チューリップ時代に咲いたひとつの愛の物語』を読む(1)

EŞİRCİBAŞI




 オルハン・パムックも『イスタンブール』で一章を割いた、歴史研究家・蒐集家にして歴史小説レシャット(レシャッド)・エクレム・コチュ。彼の作品を一度読んでみたいと思っていたのだが、今日の今日まで後回しになっていた。
 とりあえず、現在翻訳中の歴史小説の参考もかねて、もっともタイトルに心惹かれた『奴隷商人(Esircibaşı)』と『イェニチェリ(Yeniçeriler)』の二冊を発注したのだが、『イェニチェリ』の方は品切れとのことで、今回は『奴隷商人』だけ紹介しようと思う。



〔書  名〕ESİRCİBAŞI (仮題:『奴隷商人―チューリップ時代*1に咲いたひとつの愛の物語』)
〔著  者〕Reşad Ekrem Koçu (レシャット・エクレム・コチュ)
〔出 版 社〕Doğan Kitapçılık
〔出 版 年〕2004年第3刷 (初版Net Kitabevi 1944年)
〔頁  数〕129ページ



 オスマン時代のイスタンブールにおいて、奴隷制と奴隷売買は19世紀の半ばになって、ようやく問題視されはじめた。しかし、完全に廃止されるのは、19世紀末のことであった。19世紀以前には、奴隷売買はオスマン帝国でもっとも利益をもたらす商売のひとつであり、帝国の基盤を支えるものに他ならなかった。
 レシャット・エクレム・コチュは、1944年に初版の出された『奴隷商人』において、この奴隷売買の頂点に位置する人物の生活を物語ってみせた。

*1:1718年に始まり1730年に終わる一時代の通称。スルタン・アフメット3世、大宰相“ネヴシェヒル出身”ダーマット・イブラヒム・パシャの時代にあたり、西洋趣味と耽美主義、道楽が追求された時代として知られる。「チューリップ」の名は、この時期のイスタンブールでチューリップ栽培が流行したことに由来する。詳しい解説がウィキペディアで読める。→チューリップ時代