Cucumis「暗黙のルール」違反を犯す


 Cucumisからもそろそろ足を洗い、翻訳作業に本腰を入れねばならない頃なのだが、深く考えもせず突っ込んだ片足を抜くに抜けないでいる。(Cucumisネタは、今度こそ最後にしたい
 前回のエントリーでCucumisの審査のシステムについて触れたが、どうやら私は、この審査の「暗黙のルール」違反を犯して一部の会員から顰蹙を買ってしまったらしい。そのために、名誉挽回、というわけでもないが、ケチをつけていると取られないように、最大限の婉曲表現を心掛けながら、投稿された訳文をより良くするための協力を、もうしばらくの間することにしたのである。
 だからこの手のコミュニティは苦手なのだが、例えば「足跡を残してくれた相手のページには自分も足跡を残してあげる」とか、「コメントを残してくれた相手には、同じようにコメントを残す」とか、「リンクしてくれた相手には自分もリンクしてあげる」とか、その他もろもろ、日常生活での交友関係以上にわずらわしい暗黙のルールがここにもでんと居座っていたのだ。


 Cucumisの訳文審査システムは、こうである。翻訳の意味が正しいか/間違っているか/分からないか、の三項目のいずれかをクリックし、「間違っている」を選択した人は、管理人が判断しやすいようその根拠を所定の欄に書き込むようになっている。私は、自分があくまで思ったとおりに―間違っていると思えば、その通りに―評価してきたのだが、実は各翻訳には詳細ページがあり、そこには訳文の正誤についての議論を戦わすことのできるメッセージ・フィールドがあるということに遅まきながら気づいた。そこで管理人に忠告されたのだ。


 ・「意味だけでいい」という依頼に、大文字・小文字の取り違えや語順など細かいことは言わないでほしい。そういうことは管理人がチェックする。
 ・もし正した方がいいと思う点があったら、まず、このメッセージ・フィールドを使って指摘してほしい。その後で翻訳者がなお正していない場合に初めて、その訳文を拒否できるチャンスが与えられる。(いきなりダメだしをするな)
 ・他の仲間に対しもう少し配慮してほしい。(言葉に気をつけろ。もしくはもっと大目に見ろ)そうすれば、他の仲間もあなたの翻訳に配慮してくれるだろう。(でなけりゃ、あなたの翻訳は誰も評価してやらないよ)


 というわけで、サイト内ページの利用の仕方と暗黙のルールを知らなかったばかりに、大いなる顰蹙を買っていたようなのだ。翻訳を上げても評価してもらえないのも、つまりは総スカンを食っていた、ということなのかもしれない。だが、このような暗黙のルール、エチケットは、明文化してあるわけでもなく、常連にしか分からない「見えない掟」のようなものだ。新参者の私は、あくまで原文の意味に忠実に、自然な語順でより自然な表現であるべきと、つまり投稿される訳文は「完成品」であるべきという視点で評価していたのであった。自分のためではない。私はポイントにも関心はないし、エキスパートにもなりたくない。翻訳を依頼した人のこと、その人が訳文を利用する時に困らないことを考えて、である。少なくとも、ラブレターやプロポーズの言葉、指輪に刻むメッセージ、刺青用の文句に誤訳はあってはならないだろう。


 最後にもうひとつ、いまだ確証が掴めていない暗黙のルールがある、ようだ。おそらく「ネイティヴが翻訳してはいけない」ということ。なぜかターゲット言語がトルコ語の場合でも、トルコ人は手を出さず、私を含めネイティヴでない人間が翻訳している状況がある。つまり、ネイティヴでない会員にこそ翻訳の機会を与えよう、ということなのかもしれない。


 やはりCucumisは、「翻訳練習をしたい人」と、「自分の翻訳を添削してほしい人」と、「自分の翻訳にOKを出してほしい人」のコミュニティなのだ。「翻訳を依頼する人」のことは二の次なのである。