世紀のトルコ人小説家40人

ヤシャル・ケマル





1月27日(日曜日)付けヒュリイェット紙日曜版を眺めていて、興味深い記事に目が留まった。

文芸評論誌『NOTOS ÖYKÜ』が企画した、文芸・文学界で活躍する135人の識者に対して実施された調査の結果、候補となった97人の小説家のうち、“世紀の小説家”として最も多く名前の挙がった40人の名前が明らかになったという。

その記事を引用し、“過去一世紀を代表する40人の小説家”の上位20位までをご紹介しようと思う。




世紀のトルコ人小説家(上位20人)


1. ヤシャル・ケマル(Yaşar Kemal)
2. オウズ・アタイ(Oğuz Atay)
3. アフメット・ハムディ・タンプナル(Ahmet Hamdi Tanpınar)
4. オルハン・パムック(Orhan Pamuk)
5. オルハン・ケマル(Orhan Kemal)
6. アダーレット・アーオール(Adalet Ağaoğlu)
7. ユスフ・アトゥルガン(Yusuf Atılgan)
8. ハリット・ズィヤー・ウシャックルギル(Halit Ziya Uşaklıgil)
9. ケマル・タヒル(Kemal Tahir)
10. レシャット・ヌーリ・ギュンテキン(Reşat Nuri Güntekin)
11. ヤークップ・カドリ・カラオスマンオール(Yakup Kadri Karaosmanoğlu)
12. ハサン・アリ・トプタシュ(Hasan Ali Toptaş)
13. ラティフェ・テキン(Latife Tekin)
14. サバハッティン・アリ(Sabahattin Ali)
15. セリム・イレリ(Selim İleri)
16. イフサン・オクタイ・アナル(İhsan Oktay Anar)
17. タフシン・ユージェル(Tahsin Yücel)
18. セヴギ・ソイサル(Sevgi Soysal)
19. ビルゲ・カラス(Bilge Karasu)
20. レイラ・エルビル(Leyla Erbil)




ヤシャル・ケマルの1位は、当然といえば当然。誰からみても異論のない結果であろう。その経歴、作品数、数々の受賞歴、貫禄ある風貌にいたるまで、「大家」「巨匠」と呼ぶに相応しい現代トルコ文学界の重鎮である。

84歳にしてなお現役であり、彼の作家人生で唯一足りないものを挙げるとすればノーベル文学賞ノーベル賞に最も近いトルコ人作家として長年、名前が挙げられてきた)くらいであろう。同じトルコ人作家のオルハン・パムックに先を越されてしまった時、国内では「なぜヤシャル・ケマルではなくオルハン・パムックなのか?」と疑問視する声が非常に多かった。そんな彼自身、「30年来ずっとノーベル賞受賞候補者であったし、死ぬまで候補者であり続けるだろう」と語る。

スウェーデン・アカデミーには振られても、トルコ国民が彼を1位の座から降ろすことはこれからもなさそうだ。



しかし、なぜまたヤシャル・ケマルの作品がこれまで邦訳されなかったのだろう。自分が早々に匙を投げてしまった理由でもあるが、地域色の濃い描写や方言の多用が日本の読者に馴染まれにくいせいだろうか。などと、ろくろく調べもせず勝手な想像をめぐらしていたのだが、実は彼の代表傑作『インジェ・メメッド(İnce Memed)』を翻訳出版された翻訳者がいらっしゃるらしい。

酒居 忠美さんという方が訳され、2002年に(有)青史堂印刷という印刷会社(?)から出版されたことまでは分かっている。原作は一巻400〜600ページで全四巻に及ぶ大作なのだが、邦訳は全一巻のようで、おそらく第1巻のみが翻訳されたものであろう。当の印刷会社(?)のHPも工事中のため、これが現在入手可能かどうかは不明である。

『インジェ・メメッド』はいずれ腰を入れて読みたいとは思っているが、あまりに大部なため、まだまだ腰が引けてしまっている。冒頭部の雄大にして緻密な自然描写はなんとも魅力的なのだが、訳するとなると相当に骨が折れそうな代物なのだ。
が、幸いにもこの作品の冒頭部を試読することができる。東京外語大トルコ語専攻のサイトに、学生さんが過去に手がけた部分訳が掲載されているのである。

この翻訳を担当された竹林さんという方だが、学生とは思えない実に上手い訳をされている。トロス山脈から地中海に至る男性的で荒々しい地形描写は、やはり男性の手で訳されてこそ生きる、と思わせるのだ。その後、翻訳を続けてらっしゃるかどうか知りようもないが、今後ヤシャル・ケマル作品の邦訳作品が世に出ることがあるなら、ぜひこの方に訳していただきたいと密かに思っている。(自分には無理だと分かっているので・・・)