『雪』より―雪をめぐる断章【6】

cesur_civciv2007-12-28






第13章 無神論者と宗教論議はしません―雪のなかをカディフェと歩く  より




 ふたりがまだ幼く、イスタンブールにいた頃、イペッキと一緒に雪がもっと降ってくれるよう願ったものだった。 雪はKaに、人生の美しさと儚さの感覚を目覚めさせ、どれほどの敵対行為が繰り返されようと、人間は本来、互いに似通っていることを、時空間はいかに果てしなく、人間の世界はいかに限りがあるかを感じさせてくれた。 そのために、雪が降ると人々は互いに寄り添いあうのだった。 雪はあたかも、敵意と、貪欲と、怒りの上に降り注ぎながら、人々を互いに歩み寄らせているかのようだった。
(p.113)

 そう、雪はあたかも、人間世界のありとあらゆる汚濁と暗闇と危険を覆いつくし、その上に純白で柔和で明朗な世界を作り出してくれる。

 だが、雪の魔法が解けたあかつきには、以前にも増して泥まみれで汚らしく、目を背けるような現実が出現するのではなかったか?