アーンティ・ネリー/オスマン人に嫁いだあるイギリス女性の半生(1)

OSMANLI’DA BİR İNGİL




〔書    名〕 OSMANLI’DA BİR İNGİLİZ GELİN
(仮題:『アーンティ・ネリー〜オスマン帝国末期のトルコ上流階級に嫁いだあるイギリス人女性の半生〜』)

〔著    者〕 Tülün Yalçın(トゥルン・ヤルチュン)

〔出 版  社〕 Can Yayınları Ltd.Şti.

〔出 版  年〕 2004年

〔頁    数〕 本文274ページ、添付写真24点(15ページ)、家系図1点



〔著 者 紹 介〕 
 本書の主人公であるイギリス女性ネリーの姪ニハルと陸軍将校の娘としてイスタンブールに生まれる。ノートルダム・デ・スィヨン・フランス女子高校卒業後、芸術アカデミー(現在のミマル・スィナン大学)インテリアデザイン課に進む。
 現在、ボドゥルム在住。環境保護活動および動物愛護活動に積極的に関わり、他に『可愛い仲間たちの素敵な物語』、『生き延びた動物たちの物語』という著作もある。
 
〔あ ら す じ〕
 日本に例えれば、鹿鳴館時代。花開く西洋文化ときらびやかな社交の中心であったイスタンブールはベイヨール(ペラ)地区。英国ウェールズ地方から叔母とともにイスタンブールを訪れたひとりのイギリス人女性が、オスマン帝国支配階級に属するトルコ人男性と恋に落ち、ほどなく結婚してオスマン人の嫁となる。上流階級一家の家長の妻として家を切り盛りし、閣僚として政治の舞台に立つ夫を支えながら、異国の地での生活に逞しく根を下ろしていく。やがてトルコ共和国の建国に際して一家は海外追放の身となり、夫亡き後、第二次大戦をパリで孤独に生き抜いた主人公に、年老いた今、ようやくイスタンブールへの帰郷がかなった―


〔感 想〕
 著者は主人公ネリーの実の姪の娘であり、大伯母にあたる主人公の波瀾万丈の人生は、生前、本人の口から直に、また家族からもたびたび伝え聞いたことであろう。あたかも著者自身が見聞きし、感じ、経験した物語であるかのように、情景が、主人公の感情が、会話がいきいきと読む者に伝わってくる。
 小説家としては素人といってよいだろうが、そのいきいきとした筆致のおかげで、拙い表現もさほど気にならない。かえって外国人である主人公の肉声そのものが伝わってくるような錯覚さえおぼえる。トルコ流の甘ったるい表現も当然出てくるが、終始控えめなのが救われる。

 時代背景は、オスマン帝国末期からトルコ共和国建国期、さらに第二次世界大戦にまでまたがる激動の半世紀にあたり、当時の緊迫した情勢や、それに対する生活者としての憂慮、上流階級の生活や当時の風俗、流行、風習、習慣などを総覧できるのもきわめて興味深い。
 あらすじを一瞥すれば、ハーレクイン的なロマンス小説の趣が感じ取れるだろうが、ここに描かれている出来事すべては史実であり、一家に関係のあったアタテュルクについての描写など、トルコ好きに喜ばれそうなエピソードが随所に登場する。 



 次回からは、「あらすじ」というには長く、抄訳というには粗いが、この物語を斜め読みできるような形で纏めたものを掲載してみたいと思う。