『白い城』 【30】 P.71〜73

 ホジャとともに過ごした最初の日々を思い出させるこの罰という言葉が、あの頃なぜ彼の頭に取り付いたのか、私には分からない。 ときには、自分が人の言うことをよく聞く大人しい臆病者であるがゆえに、彼に勇気を与えるのではないかと考えることがあった。 それでも、彼が最初に罰という言葉を口にしたとき、私は抵抗することを心に決めた。 ホジャは、過去を思い出す作業にすっかり飽きてしまうと、しばらく家の中を上に下に徘徊した。 それから、再び私のところにやってきて、本来の考えを我々は書かねばならないと言った。 鏡を見るときどのような外見を眺めようとも、人は、自分の考えに照らし合わせながら、本質を眺めることができるのであると。


 この譬えの示す何か閃くものが、私まで興奮させた。 我々はすぐに机の両端に腰掛けた。 今度は、私までも、冗談半分にではあるが、頁の一番上に「なぜ私は私なのか」と書いた。 すぐに、そのとき自分の個人的特徴といえば私の頭にそれが浮かんだため、自分の臆病ぶりを語る子供時代の思い出を書き始めた。 さらに、他の者たちの性質の悪さについて愚痴るホジャの書いたものを読んで、私の頭には、あの瞬間に大事だと思えたある考えが浮かび、それを言った。 ホジャも自身の悪いところを書くべきだと。 そのとき、彼は私の書いたものを読んでいたため、自分は臆病ではないと言った。 私は反論した。 そう、あなたは臆病ではない。 しかし、どの人間にもあるように、当然の如くあなたにも何がしかの欠点がある。 それらを追求すれば、あなた自身を発見することになるだろうと。 私はそうしてきたつもりだし、あなたも私のようでありたいと思っている。 このことを私は感じるのだと言うと、彼が腹を立てたのが分かった。 が、彼は自分を抑え、平静になるよう努めながら言った。 悪いのは他の者たちだ。もちろん全員ではないが、奴らの多くに欠点や非があるがために、あらゆる物事がこのように誤りなのであると。 それに対し私は、あなたにも悪い面、ひどく悪い面があると、このことをあなた自身も知るべきであると言いながら、ホジャに反発した。 さらに無礼にも付け加えた。あなたは私より悪いやつだと。


 こうして、あの滑稽で恐ろしい最悪の日々が始まったのだ! ホジャは私を椅子に縛りつけ、机に向かわせた後、私の前に立ち、自分の望むものを書くように命じた。 しかし、それが何なのか、彼自身にももはや分かっていなかった。 彼の頭の中には、あの譬え以外のものはなかった。 ちょうど鏡で外見を眺めるように、人は考えながら脳味噌の中まで観察できなければならないという。 私はこのやり方を知っているのだが、その秘密を彼には隠しているというのだ。 ホジャが私の向かいに座り、私がこの秘密を書くのを待つ間、私は目の前の紙を、私自身の悪いところを誇張した物語で埋め尽くした。 子供時代のちょっとした窃盗を、嫉妬のうえの嘘を、自分のことを兄弟よりずっと気に入ってもらうおうとしてずる賢く仕掛けた策略を、青年時代の性的過失を、さんざん誇張し、かつ愉しみつつ書いた。 ホジャはそれらを興味津々に、かつ私を驚かせる奇妙な愉悦と畏怖とともに読んだ挙句、私によりいっそう腹を立て、いまや節度を欠いた虐待を増やすようになった。 おそらく、後見人になることを直感したこの過去の邪悪さに耐えられなかったために、反抗に出たのだろう。 あからさまに私を叩きはじめた。 私のある罪に関して読んだ後、「お前というやつは、この恥知らずめ」と言いながら、冗談混じりの怒りとともに私の背中に拳骨を振り下ろした。 自分を抑えきれず、びんたを食らわしたこともあった。 宮廷から呼ばれることはさらに稀になり、私と自分自身以外に関心をもつべきものが見つからないだろうことを、いまや信じ込んでしまっていたので、おそらくこれらのことは完全に鬱憤を晴らすためにやっていたのだろう。 しかし彼が私の悪いところを読むほどに、そしてまた小さな子供のごとき罰を増やすほどに、私は奇妙な安心感に囚われるようになった。 初めてホジャを、自分の思うがままに操っていると思い始めたのだった。