『白い城』 【26】 P.60〜63


 それからの3年間は、我々にとって最悪の年となった。 どの日も、その前の日の、どの月も、過ごしてきたその前の月の、どの季節も、味わってきたそれ以外の季節の、退屈で苛々する繰り返しにすぎなかった。 同じことを、苦痛と失望とともにもう一度経験し、まるで名付けようのない敗北を無為に待っているかのようだった。 それでもホジャは、ときおり宮廷から呼ばれた。当たり障りのない解説を期待されていた。さらに、毎週木曜日の午後は、計時局で科学仲間と待ち合わせておしゃべりをし、昔ほどに定期的ではないにせよ、朝はまた生徒たちの面倒を見たり叩いたり、また時には自分を結婚させようとやってくる者たちに、この度は少しばかり優柔不断になったにしても意地を張り、また女たちと寝るために、嫌いだと言っていたあの音楽を聴くはめになり、また馬鹿者どもに感じる嫌悪感でときおり息が詰まりそうになり、また部屋に閉じこもり、敷いた寝床に横になって周りの手稿や粗末な本をあっちこっち怒りに任せて弄り回した挙句、何時間も天井を眺めながら待っていた。


 彼の不幸により輪をかけたのは、計時局に通い続けている仲間から詳細を聞き及んだキョプリュリュ・メフメット・パシャの成功であった。 艦隊がヴェネツィア軍を打ち破ったこと、ボズジャアダとリミニを取り戻したこと、または反乱主導者アバザ・ハサン・パシャ*1が握りつぶされたことを私に話して聞かせる時、これらはこれで最後で、一時的な成功に過ぎないと付け加えた。 ホジャにすればこれらは、近いうちに愚鈍と無能の泥沼に沈められるに違いない片端者の最後のうごめきなのだった。 次々と繰り返して我々をさらに疲れさせる日々を一変してくれそうな悪い事件を、あたかも待っているかのようだった。 その上、彼には、学問だといって拘ってきたものの高い背丈の上で留まっていられる忍耐力と希望が残っていなかったため、それで気晴らしをすることもできなかった。 新たな思考に熱中しても、一週間ともたなかった。 少しすれば馬鹿者どものことを思い出し、すべてを忘れてしまうのだった。 大体、彼らのことは、これまで考えてきたことで十分ではないのか? 彼らについてこれほど頭を悩ませるだけの価値があるのか? これほど腹を立てる価値が? おそらく、あの頃、自身を彼らから切り離して考えることをようやく学んだばかりだったので、この学問の詳細を掘り下げる気力と意欲を集中させることができなかったのだ。 しかし、自身が彼らとは別の存在であることは確信しはじめていた。


 光明となるべき最初の熱意は、まさしく彼の心の陰鬱から生まれたものだった。 今や彼は、どんな話題も広く深く考えることができなかったので、その頃は、まさに自分で自分を持て余している自分勝手で愚かな子供のように、家の中でひとつの部屋から別の部屋に入っては出、一階から二階に上がっては下り、窓から外をぼんやり眺めながら時間をやり過ごしていた。 木造の家にコトッコトッと音を立てさせる、この終わりの来ない神経に障る徘徊の合間に彼が私のところにやってくる時、気晴らしための何らかの遊び、何らかの考え、または希望の言葉を彼が私に期待していることは分かっていた。 それでも、どんなに萎縮しようと、私が彼に抱いている怒りと憎悪の力は少しも衰えなかったので、彼の期待する言葉は決して口にしなかった。 私から何らかの答えを得るために、彼がプライドを捨て、下手に出てふたことみこと言ったときにも決して口にしなかった、彼の望んだ言葉は。 宮廷から受け取った吉と読み取れるある知らせや、あるいは意地を張って密かに事を進めれば有益な結果がもたらされるかもしれないという新しい考えを聞かされたとき、私はそ知らぬ顔で関わらないようにしていたか、彼の話の最も俗な側面をすぐに指摘して、彼の熱意に水を差すようにしてきた。 彼が空白と失望のなかで身もだえする姿を、私は喜んで眺めていたのである。


 しかし、後にホジャは、自分の気を紛らす新しい考えを、この空白のうちに見出した。 おそらく、ひとりきりで居られるようになったためか、おそらく何に関しても詳細に留まっていられない知性が、自身の気短さを乗り越えることができなかったために。 そこで私は、彼に答えを返した。励ましたかったのである。 彼の頭に浮かんだことは私の興味を引くものだった。 おそらくこの間に、彼が私のことも気付くだろうと思っていた。 ある夕方のこと、家をコトッコトッといわせながら徘徊する足音が私の部屋に入ってきて、ホジャが、日常的かつありふれた物事について口にするかのように私に、「なぜ私は私なんだ?」と言ったとき、私は彼を励ましたいと思いながら答えを返した。

*1:Abaza Hasan Paşa:?-1659。スルタン・メフメット4世の治世下で、オスマン朝時代で最も大規模な反乱を起こした主導者。