『白い城』 【21】 P.48〜50


 
 
 真夜中をとうに過ぎた頃、ホジャは部屋から出てきた。 些細な問題に引っかかったために助けを求める生徒の遠慮がちなはにかみと共に、私を部屋の中に、彼の机のすぐ横に呼んだ。 私に、少しのためらいも見せず「助けてくれ」と言った。 「一緒に考えよう。ひとりでは先に進めないんだ」 私は一瞬、これは女に関係した何かだろうと思って黙った。 私が呆然と見つめているのを見てホジャは、「馬鹿者どもについて考えているんだ」と言った、真面目な顔で。 「どうして、あそこまで馬鹿なんだ?」 それから私の返答を知っているかのように付け加えた。「よろしい、馬鹿じゃあないとしよう。しかし、奴らの頭には何かが欠けている」 「奴ら」が誰なのかは訊かなかった。 「あの知識を頭の中に留めておけるような場所がないのだろうか?」と言って、まるである言葉を探しているかのように、辺りを見回した。 「頭の中に箱のひとつでも、箱のいくつかでも、そこの箪笥の棚のように、多種多様な物を仕舞っておけるような空間がなければならない。なのに、まるでないみたいなのだ、そんなものが。分かるかね?」 自分が何事かを理解したものと信じ込みたかったのだが、あまり上手くいかなかった。 長い間、我々は向かい合って黙りこくっていた。 最後には、「だいいち人間が、なぜああなのかとか、こうなのかとか、いったい誰が理解できるかね?」と言った。 それから、「ああ、お前が本当の医者で、私に教えてくれていたなら」と言った。 「我々の胴体を、胴体と頭の中身を」 ホジャは少し恥ずかしくなったかのようだった。私を怖がらせたくないがために身に着けたのだろうと思われる健全な態度でホジャは打ち明けた。 降参するつもりはない、最後まで行ってやるつもりだという。 最後にどうなるのか気掛かりでもあり、やるべきことが他にないからでもある。 私は理解できなかった。しかし、これらすべてを私から習ったのだと考えるのは、気分がよかった。


 それから後は、どういう意味になるのかふたりとも分かっているかのように、ホジャはこの言葉をしばしば繰り返した。 しかしホジャが身に着けたこの決断には、とかく質問ばかりする空想家の生徒のごとき態度が見受けられた。 ホジャが毎回、最後まで行ってやると言うたび、私は、自分がなぜこのような目に遭うのかと問う、何の見込みもない愛人の悲哀と憤りに満ちた呻きを耳にしたような気になったものだった。 その頃ホジャは、特に頻繁にこの言葉を口にしていた。 イェニチェリたちが反乱を企てているところだと知った時に。 子供学校の生徒たちが、星よりも天使に関心を持っているのを私に話して聞かせた後に。 かなりの金を払って手に入れた写本を、まだ半分も読み終わらぬうちに怒って脇の方に放り投げた後に。 もはや単に習慣であるという理由で、計時局で待ち合わせておしゃべりした友達と別れた後に。 十分に暖められていないハマムで風邪を引いた後に。 周り一杯に、そして花柄模様の布団の上に広げた愛しい書物とともに床についた後に。 モスクの中庭にある沐浴場所での馬鹿げたおしゃべりに耳を傾けた後に。 艦隊がヴェネチア軍に敗北したのを知った後に。 年頃を過ぎようとしていると言って、彼を結婚させようと訪ねてくる地域の人の話を辛抱強く聞いた後に。 またもや繰り返していた、最後まで行ってやるぞと。


 今、私は考えている。私の書いたこの物語を最後まで読むのは誰か。ここで起きた一部始終を、あるいは私が想像で語ることのできたあらゆる事柄を辛抱強く追いかけた読者のうち誰が、ホジャがこの約束を守らなかったことを指摘できるのだろう?