『白い城』 【20】 P.46〜48


 私でさえホジャから初めて聞いたこの計画に、スルタンは楽しいおとぎ語を聞くように耳を傾けたという。 馬車で宮殿に戻るとき、もう一度訊いたそうだ。「ライオンはどんな風に産むと思う?」 ホジャは、前もって考えておいたので今度は答えたらしい。 「産まれる仔たちは、それぞれ均等であることでしょう!」 家で私に、この言葉にはまったく危険はないと言った。 「あの馬鹿な少年を思い通りにしてみせる」と言うのだった。 「最高占星学者ヒュセイン候より、私の方がずっと能力があるそうだ!」 スルタンについて語るとき、ホジャがこの言葉を使うことに私は驚いた。 もっといえば、どういうわけか不快になったほどだった。 その間私は、心の内の苛々を紛らわすために家の中の仕事に没頭していた。


 それからホジャは、その言葉を、あらゆる錠前に合う魔法の鍵のごとく使い始めた。 奴らは馬鹿なために、自分たちの頭上で動き回る星たちを見ても考えないのだ。  奴らは馬鹿なために、学ぼうとしている事柄がまず何の役に立つか訊いてくるのだ。 奴らは馬鹿なために、詳細をではなく概略を気に掛けるのだ。 奴らは馬鹿なために、互いに似通っているのだ、などなど。 数年前、まだ故国にいたとき、この種の批評をするのを私も大いに好んだものだったが、ホジャには何も言わなかった。だいいち、その間ホジャは、私にではなく馬鹿者どもにご執心だったのだ。 私の愚かさは別種のものらしい。 ある日見た夢を、その頃の饒舌さでもってホジャに説明した。 夢でホジャは私になり代わって祖国に行き、私の婚約者と結婚するのだ。結婚式では誰もその男が私でないことに気付いていなかった。私はトルコ式の服を着ていて、隅の方から眺めていた饗宴のさなか、母と幸せな婚約者に出くわすのだ。私は涙を流しながら眠りから覚めたというのに、ふたりとも私が誰であるか分からぬままに背中を向け遠ざかっていくのだった。


 その間にもホジャは、二度ほどパシャの屋敷に出掛けた。 パシャはおそらく、ホジャが自分の目を盗んでスルタンに近付いていることが気に食わなかったのであろう。 ホジャを尋問に引き立てたという。 パシャが私のことを尋ねたことを、私について調査させたことを、ずっと後になってパシャがイスタンブールから追放されて後にホジャから聞かされた。 でなければ私は、毎日を毒を盛られる恐怖とともに過ごしたことだろう。 もっともパシャが、ホジャよりもずっと私の方に関心を抱いているのは感じていたが。 ホジャといるときパシャは、ふたりの間の相似性のせいで、私といるときよりもずっと苛々するという事実が、私のプライドをくすぐるのだった。 その時点では、まるでこの相似性こそが、ホジャがいつになろうと認めたがらない、そしてその存在が私に奇妙な勇気を与える、秘密のようであった。 時々は、まさにこの相似性ゆえに、ホジャが元気な間は私も危険から遠ざかっていられるのだと思ったものだった。 おそらくこれがために、パシャもあの馬鹿者どものひとりに過ぎないとホジャが言ったとき、私は反論したのだろうし、そこでホジャも腹を立てたのであろう。 ホジャが私を手放せもせず、同時に私の前で恥じるのを感じた私は、今までになく横柄な態度に出るようになった。 たびたびパシャのことを、パシャが我々ふたりについて語った内容を尋ね、理由はおそらくホジャ自身にも分からない怒りに彼を息詰まらせた。 するとホジャは、しつこく繰り返しながら言ったものだ。 パシャも失脚させられるだろうと。近々イェニチェリたちが何かを始めるだろう。宮殿内でも、何らかの手はずが整えられているのを感じるのだと。 そのため、パシャが言った通り兵器について研究するとすれば、これは新旧交替の激しい一大臣のためにではなく、スルタンに献上するためにやらねばならないのだという。


 しばらくの間、ホジャはひとりでこの曖昧な兵器の設計に取り組んでいたかと思った。 取り組んではいるが、先に進められられないのだろう、とは思っていたが。 というのも、進んでいれば私に打ち明けるだろうと、いかに私を見下そうとしながらであれ、私がどう思うか聞くために、作り上げたものを私に説明して聞かせるだろうと確信していたから。 ある晩、我々が二、三週間に一度してきたように、アクサライのあの家に行き、音楽を聴いた後、女たちと寝、家に戻ってくるところだった。 ホジャは私に、朝まで仕事するぞと言った。 それから、女たちのことを訊いた。 今までしたことがないことだった、女のことを口にするのは。 「考えているんだ」と言った、そのあと急に。 しかし何を考えているかは言わないままに、家に帰り着くやいなや部屋に閉じこもった。 私は、もはや頁を繰ることさえ億劫な書物の間に取り残され、彼のことを考えた。 先に進められないでいるに違いない彼の設計あるいは考えを、閉め切った部屋で、いまだに部屋全体に馴染んでいない机に座って目の前の白紙を見つめているのを、机の端で何時間も羞恥と怒りを抱えつつ呆然と座っているのを・・・・。