『白い城』 【18】 P.41〜43

スルタン・メフメット4世の少年時代

 
 

 準備としてホジャは、パシャに読んで聞かせた文章を、9歳の少年が理解できるようなかたちで手を加えながら、暗記した。 が、ホジャの心はスルタンにではなく、どういうわけかパシャに、パシャがなぜ話を打ち切ったかにあった。 この秘密をいつか解明してみせるそうだ。 パシャが作らせたがっている兵器とは、どのようなものだろうか? 私が言えそうなことは何一つ残っていず、ホジャは自分ひとりで研究を続けていた。 ホジャが真夜中になるまで部屋に閉じ籠もっているとき、私はもはや、いつ故国へ帰れるかということさえ考えず、馬鹿な子供のように、窓の前にだらだらと座って想像をめぐらしていた。 想像では、机の端で勉強をしているのは、ホジャではなく私で、好きな時に好きな場所に行くことができるのだった。


 夕方、装置を一台の馬車に積み込み、我々は宮殿へ向かった。 私はもうイスタンブールの小路が好きになっていた。 私は誰からも見えない男になっていて、小路と小路の間を、庭園の鈴懸の大木や栗、花蘇芳の樹々の間を、亡霊のように通り過ぎるところを想像した。 装置を、他の者たちの手も借りながら、指示された場所である二番目の中庭に設置した。


 スルタンは、年齢よりも背が低く、赤い頬をした可愛らしい少年だった。 装置を、自分のおもちゃであるかのように触っていた。 この少年と同年輩の友達になりたいと思ったのは、その時か、あるいはずっと後か、15年後に再び出会った時か、思い出せない、今となっては。 しかし少年に不当なことはするべきではないとすぐに感じた。 その時ホジャは、あがって縮こまってしまっていた。スルタンを取り巻く大勢の人々も、興味律々に彼のことを待っていた。 ホジャはようやく開始した。物語にまったく新しい要素を付け加えたらしい。星々を、知能を持つ生命体のように語った。幾何学と算数を知っていて、その知識に従い調和を伴って回転する、魅力的な神秘を有する生き物に星々をたとえた。 時おり頭を上げてうっとりと空を見上げる少年が、影響を受けている様子を見るたびホジャは興奮した。 そこでホジャは、いくつもの透明な球の上から、星々が吊り下げて留められ回転する模型をここで見せた。ほら、金星はそこにあり、このように回転している。そこで留まっている巨大なものは月、そしてそれも、言うならば、位置を他のかたちで変えているのだと。 ホジャが星々を回転させるたび、模型に取り付けたベルが心地よい音色で鳴った。幼いスルタンはビクッとして一歩後すざりし、それから勇気を振り絞って、魔法の箱に忍び込むかのように近付き、チリンチリンと鳴る装置を理解しようと努めていた。


 今、思い出を拾い集め自分自身に過去を当て嵌めようとしながら、これは、まさに子供の頃に聞いたおとぎ話に、そのおとぎ話に挿絵を描いた画家たちにピッタリの幸福の図であると考えていた。 唯一、お菓子に似た赤い屋根の家々と、逆さにすると雪が降ってくるあのガラス玉が欠けていた。それから、少年が質問を始め、ホジャは答えをどうにか間に合わせ始めた。


 この星たちは、空中であんな風にどうやって留まっているの?透明な球に吊り下げてあるのです。 あの玉は何から作られたの?それ自身を透明に仕上げる透明な材料からです。 お互いにぶつからないの?いいえ、模型にあるように段々になっているのです。 あんなに星があるのに、どうしてあんまり玉がないの?なぜならあれらはとても遠くにあるからです。 どれくらい?とっても。 他の星たちにも、回ると鳴るベルがあるの?いいえ、ベルは星たちが一回転したことが分かるようにと、私たちが付けたのです。 雷はこれらと関係がある?ありません。 じゃあ、何と関係があるの?雨とです。 明日は雨が降る?空を見る限り、降らないでしょう。 空は、僕の病気のライオンのことを何て言ってる?良くなると、だが辛抱しなければならないと。など、など。


 病気のライオンについての考えを述べる際、ホジャは、星について話すときにやったように、再び空を見上げた。 家に戻った後でホジャは、この件を軽視しながら話した。 重要なのは、少年が知識と詭弁とをそれぞれ区別することではない、何ごとかを認識することであるという。 ホジャはまた同じ言葉を使っていた。おまけに、認識されるべきものが何なのか、私が気付いているかのようにこれをやっていた。 私は、もはやムスリムになろうがムスリムになるまいが、何の違いもないと考えていた。 宮殿を出るとき渡された袋からは、きっかり5枚の金貨が出てきた。 ホジャは、星々に起こっている出来事の背景にひとつの論理が存在していることを、スルタンは感じ取ったと言った。 ああ、スルタン。後に、ずっと後に、私は理解したのだ、彼を。 同じ月が、我々の家の窓から見えたことに私は驚いた。私は子供に戻りたかった。 ホジャは自分を抑えられず、同じ話題に戻った。 ライオンの問題は大したことではない。少年は動物が好き、それだけのことだという。