『白い城』 【16】 P.37〜39

 


  


 
 その頃ホジャは、毎週ではなく、少なくて月に一度ぜんまいを巻いて調節すれば済む時計を可能にする、もっと大きな歯車の仕掛けをどうすれば開発できるか、と考えていた。 このような歯車一式を開発した暁には、年に一度だけ調節される礼拝時計を作るという考えがホジャにはあった。 問題のすべては、この巨大時計のぜんまいを巻く間隔が延びるほどに、数が増えて重くなる歯車を動かすことのできる動力を見つけ出すことにかかっていると、ホジャは考えていた。 とそこに、計時局の仲間から、パシャがエルズルムから戻ったことを聞かされたのだった。


 翌朝ホジャは、パシャにお祝いを言いに駆けつけた。 来客でごった返す中、パシャはホジャを気にかけ、彼の発明に興味を抱き、私のことまで尋ねたという。 その夜我々は、時計を外しては組み立て外してはまた組み立て、宇宙模型のそこここに何がしかを加え、手元にあった筆で星たちに色を塗った。 ホジャは、聞き手に影響を与えるために魅力的かつ詩的な言葉でしたため暗記した文章の一部を、私に読んで聞かせた。 朝方、星たちが回転する論理に関係したこの文章を、ホジャは興奮を静めるためにいきなり反対から読んだりした。 それから、呼んであった馬車に装置を積み込み、パシャの屋敷に向かった。 何ヶ月も家を塞いでいた時計と模型が、一頭立ての馬車の荷台にこじんまり納まったのを、私は驚きつつ眺めた。 ホジャは夜遅くになって帰宅した。


 装置を庭に下ろさせ、パシャがこの奇妙な物たちを、冗談をまるきり好まない愛想のない老人の冷淡さで点検し終えるのを待ってから、ホジャは暗記した文章をパシャに読んで聞かせたという。 パシャは私を覚えていたらしい。何年か後に、スルタンの口からも飛び出すことになるその言葉を口にしたそうだ。「奴か、お前にこんなものを教えたのは?」 最初の反応は、これだけだったという。 ホジャはといえば、パシャをさらに驚かせる反応を示したらしい。「誰ですと?」 その後で、しかしすぐに理解したらしい、話題となっているのが私だということを。 パシャに、私のことを教養のある愚か者だと言ったそうだ。 そう私に説明するとき、ホジャは私のことは気にしていなかった。ホジャの記憶は、いまだパシャの屋敷で起こった出来事にあったのである。 それからホジャは、頑として、どれも自分の発明であると言ったが、パシャは信じなかったらしい。 まるで何かの犯人を探そうとでもいうような態度で、なおかつ、その犯人が大のお気に入りのホジャであったことが、内心まったく納得がいかないかのようだったという。

 
 こうして星の話をする代わりに、私の話をするはめになったという。  この話題にホジャがまるきり気乗りがしなかったことは、想像がつく。 そうして沈黙が訪れ、パシャの注意も、周囲を取り巻く他の来客たちに向けられた。 晩餐のとき、ホジャが星と自分の発明について説明するため再び行動に出ようとしたところ、パシャは、奴の顔を思い出そうとするが、頭に浮かんでくるのはお前の顔だ、と言ったそうだ。 食事の席には他の者もおり、人間は一対のものとして作られたという話題をめぐってオシャベリが始まったという。 この話題に沿って誇張された例がいくつか思い起こされたらしい。 例えば、母親が互いを取り違えてしまった双子の兄弟たちや、互いを見れば恐れを抱くが、魔法をかけられたかのように二度と互いに離れられなくなる似たもの同士、無罪の人間の身代わりとなった山賊たちについて話し合ったという。 晩餐が終わって来客たちが三々五々散り始めた頃、パシャはホジャに残るように言ったという。