『白い城』 【12】 P.28〜30

メフメット・パシャの御前に引き出され


 


 

 翌朝パシャは、まさに昔話に出てくるように、ホジャの手で布袋一杯の金貨を*1届けさせてくれた。 ショーは大いに気に入ったが、悪魔の勝利は心地悪かったと言ったそうだ。 ショーはさらに十日間続けられた。 日中は焦げた模型を修理させ、新しい演出を考えては、牢獄から連れてきた捕虜たちに花火を詰めさせた。 十袋の火薬とともに顔まで焼いてしまったひとりの奴隷は、めくらになってしまった。


 結婚披露の祝典が終わると、ホジャには会えなくなった。 一日中私のことを密かに観察していた、好奇心旺盛なこの男の嫉妬の眼差しから救われたため、私はホッとした。 だが、彼と過ごした活動的な日々に、心残りがないわけではなかった。 祖国に帰ったら、私にこれほどに似ているにもかかわらず、ふたりの相似性について一言も口にしないこの男のことを皆に説明してやるつもりだった。 独房で何もすることがなく、私は時間をやり過ごすために病人を診ていた。なので、パシャが私を呼んでいると聞いて興奮し、時をおかず嬉々として駆けつけた。 パシャはまず、大急ぎで私のことを褒め称えた。花火ショーを皆が気に入った、大いに楽しんだ、お前はとても才能がある、などなど。 そして前触れもなく切り出した。ムスリムになれば、お前をすぐに解放してやると。私は驚いて馬鹿になり、祖国に帰りたいと訴えた。その愚かさで、どもりながら母親や婚約者のことを話すような、幼稚な真似までやった。 パシャは、まるで私の話を聞かなかったかのように、ふたたび同じことを言った。 私は少し黙った。頭になぜか、怠け者でヤクザな幼友達―父親に反抗しては嫌悪されていた少年たち―のことが思い浮かんだ。信仰は変えないと伝えると、パシャは私に腹を立て、独房に戻した。


 三日後、パシャは再度私を呼びつけた。 今回は機嫌がよかった。 信仰を変えることが、ここから逃げる役に立つのか立たないのか判断がつかなかったため、決心するには至らなかった。 パシャは私の考えを訊いた。この地で、私を美しい娘と自身の介錯で結婚させてやるが、どうかという。 勇気を振るい、信仰は変えられないと言うと、パシャは少し驚き、それからお前は馬鹿だと言った。 信仰を変えたからといって、顔を合わせられなくなるような誰一人、私の周囲にはいないというのに。 それからパシャは少しばかりイスラム教について話した。黙ると私を独房へと送り返した。


 三度目の訪問では、パシャの御前には呼び出されなかった。 家令が決心のほどを訊いた。 たぶん決心を変えることはできただろう。 だが、家令が訊いたからというわけではなく、今の時点ではまだ信仰を変える心の準備ができていないのだと私は言った。 家令は私の腕を引っ張って下に連れて行き、別の人間に私を引き渡した。 背が高く、夢で繰り返し見た人物ほどに痩せた男だった。 こいつが私の腕を抱え、寝たきりの人間を介助するかのような憐れみを込めて、私を庭の一角に連れて行くとき、私のそばに夢には登場しそうもないほど現実味のあるもうひとり別の人間が近づいた。そいつは大柄だった。 ふたりは、壁の隅で立ち止まると私の手を縛り上げた。 彼らの手には、それほどは大きくない斧があった。ムスリムにならないというなら、私の首をすぐに打ち落とすようにパシャが命じたという。 私は驚きで身じろぎひとつできなかった。

*1:頓知とユーモアで有名なナスレッディン・ホジャの小話にかけてあると思われる。ナスレッディン・ホジャの小話集には、しばしばホジャが袋一杯の金貨を提げている挿絵が描かれている。