『白い城』 【8】 P.21〜22

スルタンと官僚たち

 



   


 


 部屋に入ってきた男は、信じられないほど私に似ていた。 私があそこにいるとは! 最初の瞬間、そう思った。 まるで私を騙そうとする誰かが、私の入ってきた扉のちょうど真向かいの扉から、私をもう一度中に招き入れ、こんなことを言っているかのように。 ほら、お前は本来はこんな風であらねばならなかったのだ。扉からこのように中に入らねばならなかったのだ。手と腕をこのように動かし、部屋の中で座っている向こう側のお前自身をこのように眺めなければならなかったのだ、と。 目と目が合ったので、会釈を交わした。 しかし、男のほうは驚いたようには見えなかった。 それで、それほど似ているわけではないのだと結論づけた。 男には顎ひげがあった。それに私は、自分の顔が何に似ているのかさえ、まるで忘れてしまったかのようだった。 男が私の向かいに座っている間、もう一年も鏡を見ていないことにふと気が付いた。


 少しして私の入ってきた扉が開き、男は向こうの部屋に呼ばれた。 待つ間に、これは入念に用意された冗談ではなく、私の鬱屈した頭の空想の産物だろうと考えた。 というのも、その頃はしきりに夢を見ていたからである。 私は自宅に戻っている、皆に出迎えられている、すぐに解放されている、本当はまだ船の中で、自分の船室で眠っている、これらのことは全てただの夢に過ぎない、といった類の慰め話を。 このことも、そのような夢物語のひとつに過ぎない、なのに現実になってしまったのだと、あるいは何もかも一瞬にして変化し、もとの状態に戻るひとつの兆しであると、そう考えようとしていたところで扉が開き、私は向こうの部屋に呼ばれた。


 パシャは、私によく似た男の少し向こう側に立っていた。 着物の裾に接吻させた後、機嫌はどうかと訊かれたので、牢で味わっている苦痛や故国に戻りたい旨を説明しようとしたのだが、耳を傾けようとさえしなかった。 しかしパシャは覚えていた。私が科学、天文学、工学に通じていると言ったことを。 ところで、大空に打ち上げられるあの花火とか火薬についても識っているのか?と訊かれ、すぐに識っていると答えた。 しかし、一瞬、向こうの男と目と目が合ったので、私に罠を仕掛けようとしているのかと心配になった。


 パシャは、自分が支度している結婚披露宴は類を見ないものになるだろうと言った。 それと、花火ショーを準備させるつもりだが、今回のものは、それ以前のものとは似ても似つかないものでなければならないとも。 以前、スルタンの生誕時に、後に亡くなったマルタ人が花火職人たちと準備したショーで、パシャが単に「ホジャ(先生)」と呼ぶ私に似た男も働いたことがあり、この仕事のことが少しは分かるそうだが、パシャは、私も彼の手助けができるのではないかと考えたようだった。 互いに互いを補い合うように(!)と。 立派なショーにすれば、パシャも我々が喜ぶよう計らってくれるという。 頃合だと思って、私の望みは故国に戻ることだと言いかけたのだが、パシャは、ここに来て以来、一度でも女と寝たのかどうかと私に訊いた。 返事を聞くと、そいつをしないんだったら、自由など何の役にも立たなかろうと言った。 パシャが看守たちの使う言葉で話すところを見て、私はぼうっと間抜け面をしていたに違いない、大笑いされてしまった。 それからパシャは「ホジャ」と呼ぶ私に似た男の方を振り返った。責任者は彼なのだ。 我々は退出した。