『白い城』より(5)


原文10ページ12行目。(邦訳13ページ11行目)

Böylece, yeniden, yeniden dönüp okuduğum hikayeyi, elinden sigara düşmeyen gözlüklü bir kızın da yüreklendirmesiyle yayımlamaya karar verdim.

こうして、もう一度、最初に戻って読んだ物語を、煙草を手放さない眼鏡の一少女でさえ励ましてくれたことで、出版することに決めたのだった。

以上の経緯を経てわたしは、幾度も読み返したこの物語を出版することにした。眼鏡をかけてひっきりなしに煙草を吸っていたあの姪っ子がそうするよう勧めているような気がした

やはり原文は1文、宮下訳では2文に分けられている。拙訳の「煙草を手放さない眼鏡の一少女でさえ励ましてくれたことで」の部分を独立した文とするために、苦し紛れに「〜ているような気がした」という形で文末を処理したのではないだろうか。原文を素直に読めば、「気がした」のではなく、このような少女の励ましが決断の最終的な決め手となっていることははっきりしているように思うが。

ちなみにkızは少女、bir kızならひとりの少女、yüreklendirmekは励ます、勇気づける、という意味である。「励ます」「勧める」の意味の差異はともかく、なぜここで宮下氏が「あの姪っ子」と少女を特定したのか、私には皆目見当がつかない。あるいは『静かな家』に、ファルックの姪としてこのような少女が登場するのだろうか。



こうして私は、何度も、何度も読み返したこの物語を、煙草を手放さない眼鏡の一少女でさえ励ましてくれたことで、出版することに決めたのだった。